第二百二十四話:『医者の往診なんて:その四 貞子さん』

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貞子さんは今年95歳、廃用症候群、認知症、大腿骨頸部骨折、腰椎圧迫骨折、高血圧、高脂血症、繰り返される不明熱、尿路感染症と誤嚥性肺炎などなど。どれもこれも、高齢者にお馴染みの疾患群です。

 

数日前、また熱が出たとの連絡が入りました。38.5度の突然の高熱。臨時往診に行きました。ベッドに横たわった貞子さんの両の手の指先は紫色、チアノーゼがでています。多分、肺炎の再発です。食べる意欲もなく、診察をする間も、目を閉じたままです。でも呼び掛ければ開眼されます。応答もそれなりにあります。

 

ご長男とその奥さんとに、今後の治療方針について相談しました。入院させるか、このまま家でみるか。点滴治療はするか、しないか。もしもの時が来たら、蘇生術をするかどうか。するならどこまでやるか。心臓マッサージはどうするか、人工呼吸器をつけるか、除細動はどうするか。終末期医療での課題は多いです。

 

お二人とも意見は一致していました。何度も繰り返された同様のエピソードに、すでに意思は固められている様子。このままで家で看てやりたい。結果として、最後の時を迎えようとも、ここで、このまま、看取りたいとのご希望。点滴はせずに、内服薬だけで治療してほしいと。

 

水分補給に努めること、食べやすく、飲み込みやすいものを、少しずつ頻回にあげてほしいとお願いしておきました。呼吸器感染症に有効だと思われる経口抗生剤を処方しました。

 

数日が経過しました。貞子さんの家族に、様子を確認しようとした矢先、あちらから電話が入りました。薬を投与した二日後には解熱し、食欲もでたと。さすが大正生まれの女はしぶとい。もう何度目かの復活劇です。

 

高齢者の終末期医療の最大の問題点は、最後の時がいつ来るかが読みにくい点。未来永劫に亘って、延々と介護しなければならないような気がして、家族は苦しみます。回復してくれたのは嬉しいが、気が重いのもまた事実なんだよね。

 

複雑な表情をして、ご長男夫妻は笑って居られました。安堵もあり、落胆もありといったところでしょうか。

 

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