第二十六話:「お母さん大好き、おかあさんありがと 第四章」

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 四月四日、病院玄関へと続く桜並木が満開です。お花見だけに来られる家族や老夫婦が羨ましい限りです。最近、小山田先生から詳しい病状の説明がないので少し不安です。何となく先生の診察がおざなりな感じがするのは私の僻みなのでしょうか。切除不能の癌患者では仕方ないのかもしれません。最近では夜になると腰が痛いらしくよく座薬を入れています。あの痛みは何が原因なのでしょうか。不安です。恐いのです。考えたくありませんが・・・。

「酒屋がこんなんじゃ仕方ないな。ビール瓶の一函さえ持つのが辛いなんて全く情けない。今度病院へ行ったら小山田先生に訊いてみないといかんな」

何気ない夫のこんな言葉が辛いのです。次女の博子も辛いのによくやってくれています。夫が何よりも辛いのはよく解ります。仕事もままならず、病状も次第に悪くなっています。不安も募るのでしょう。苛ついて当たることが出来るのは私しかいないものね。いいよ、私に当たって気が晴れるなら。お父さん、頑張って。

 四月十八日、病院の診察。座薬を入れないと僅か10分ほどの距離が歩けなくなっています。それでも何とか頑張って待合室に辿り着きました。でも小山田先生の診察は僅か数分で終わり。どれほど頑張って通ってきているのか、判っていらっしゃるのだろうか。腰が痛むと云ってもひと事のよう。確かにひと事なんだよね。

 でも腰が痛むと訴える患者に、

「原因などは判っている、座薬を使うしかないです」

などと云わなくても良いのに。もう少し優しく出来ないものかしら。

 家に帰り着いた途端、寝込んでしまう。

「俺はもう再起不能かもしれん」

天井を眺めながらぽつんと一言、初めて弱音を吐きました。もう悲しくて涙が止まらなくなってしまいました。トイレに駆け込んだけど泣き声を聞かせる訳には・・・。こんな辛いこと、もう厭だ。誰か、助けて。

 四月二十三日、一日中痛みが強いらしくゴロゴロしている。便もだんだんと出にくくなっている。座薬もあまり効かないらしく私に当たる。

「根本的に治さんとようなる訳ないのにどこへも連れてってくれん。俺のことなんかどうでもいいんか」

辛い。夫がこんな態度を見せるのは初めてのこと。良くなるものなら何処へでも連れてってあげるのに。解ってよ。神様、どうか夫を助けて下さい。

 四月二十五日、微熱がある。お腹の傷の辺りがムカムカするといい食欲もない。最近痩せて頬骨が張って人相が変わったような気がして怖い。病気のせいだろうか。今日はおばあちゃんの命日だけど、とてもお墓参りには誘えない。博子と節子、政則さんに頼んで私たちの替わりにお参りしてもらう。夜、久しぶりに皆が集まった。でも夫は何も食べてくれない。娘たちが勧めてもほんの少し口に入れるくらいで、それをいつまでも口の中でモゴモゴやっている。とうさん、食べないと体力落ちちゃうよ。食べないと免疫力も維持できないって都築さんが云ってた。節子は妊娠三ヶ月に入っているらしい。どうか無事に生まれてきますように。元気な子に育ちますように。でも夫はあと七ヶ月も大丈夫だろうか。何とか初孫を抱かせてやりたい。

 節子と政則さんが帰ったあと、すごくいい便が出た。お腹の張りも軽くなったようで機嫌が良かった。明日から都築さんの勧めで「仙骨」にかかってみることになった。良く効くらしい。どうかお父さんの腰痛が止まりますように。

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