第三十三話:「お母さん大好き、おかあさんありがと 終章」

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こんな時間だから先生に連絡をするのも躊躇われた。家族だけで死んだ父を囲んでいるのは何となく落ち着かなかった。朝七時になって連絡をしたらすぐに来て下さった。私たちがいくら押さえても閉じきれなかった父さんの両眼をすっと閉じて下すった。それから静かに掌を合わされた。そのとき初めて父の死を実感した。

 

先生が、あなた方もよく頑張ったねと仰って下さり、また涙が溢れて止まらなかった。ふと父を見ると何だか笑っているように見えた。もし、父があのまま入院していたら、もう少し長く生きられたのかもしれない。でもそれは結局、本人の苦痛を長引かせるだけのことだと思うし、病院では絶対にしてあげられなかった事も沢山してあげる事が出来た。家に居てもらったからこそ、父にしてもらえた事も沢山あった。

 

母も私も在宅医療を通して出来る限りの事を父さんにして、出来る限りの愛を父に注いだと、いま自信を持って言うことが出来る。それは在宅だからこそ出来た事なんだと思う。私たちは先生のお陰であまり他の人には出来ない在宅ホスピスを家族全員でやり遂げる事が出来た。それは最初からそうなるように父が仕組んでいた事なんだと、いまあらためて思う。

 

父のような末期癌の患者さんは世の中に沢山いることだろう。お医者さんにとっては大勢の患者さんのうちのひとりであっても、その家族にとってはかけがえのない存在。藪先生が手掛けておられる在宅ホスピスは命の尊さと重み、生きることの素晴らしさを知らしめる貴重な伝導。

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