第二百二十二話:『医者の往診なんて:その二  お辰婆さん』

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お辰さんは89歳、すらりとした長身、痩せがたのお婆さん。心不全と原因不明の拒食症で、一時は餓死寸前だったそうです。それが何故だか解らぬまま、拒食症から脱却して食べられるようになりました。栄養状態も少し好転したということで、自宅に戻られ、筍の元へ往診依頼となった訳です。

 

一戸建ての家に住んで居られました。往診の筍を迎えてくれたのは無職の孫、少し発達障害があります。ベッドがおかれた座敷は消灯したままの暗い部屋、そこに薄汚れた布団を冠って寝て居られました。

 

ベッドスタンドには近所の食堂から出前された昼夜兼用の食事の折り詰め。型通りに診察を進めます。見守る孫は心配そうにベッド脇に立ち尽くしています。お婆さんっ子だといいます。素直な子です。微笑ましいかぎりです。

 

筍が帰れば、部屋はまた電気が消され、お辰さんはやることもありません。日がな一日、黙りこくって寝ているしかないのです。孫は二階の自分の部屋に籠ったままです。

 

往診を始めるにあたって、お辰さんに尋ねたことがあります。死に場所としては何処がいいかと。同居するご長男にも同じく訊ねた。二人揃って、「家で死にたい」、「家で死なせたい」とのことだった。

 

このままでその刻を待たせてよいのか。拒食症になるのも当たり前のことではないでしょうか。生き甲斐の欠片すらないひとに、どうやって生きよと説得できるのでしょう。

 

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