第十七話:「ぽんこつ山の狸達 その壱」

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 昔々のお話です。山越え、山こえ、もひとつ山越えた奥の奥、ぽんこつ山のお話です。へんぴで、辺鄙で、へんぴなところ。おっとう山を源に、おっかあ山とせがれ山、まごまご山の岩肌を削り、ぽんこつ山の山裾を縫うように、澄み切った神座川が流れています。

 昔からぽんこつ山には沢山の狸達が、それは、それは、仲良く倹しく暮らして居りました。春には野に出てゴンパチや山蕗の薹を採り、夏には川で鮎掛けをしたり川蝦を掬ったり、秋には藻屑蟹を捕ったり松茸を探し、冬には冬で山で猪や鹿を狩るのです。貧しいけれど静かで幸せな日々でした。

 ある日、都からお役人がやってきて云いました。

「みなのもの、山々に杉と檜を植えるのじゃ。たくさん植えたものには褒美をとらす」

狸どもは沸き立ちました。ウバメガシやクヌギやホウノキが生い茂り、秋ともなればまるで錦を羽織ったような美しい山肌は、みるみる切り拓かれてしまいました。もう炭焼きも満足には出来ません。

 またある日、都から役人がやってきて云うのです。

「神座川を堰止めて池を作れ」と。

一匹の狸が恐る恐る尋ねました。

「なぜに池などを作るのです。池など作っても儂らにはなんの役にも立たんし」と。

 役人はお堂の鐘も割れんばかりの大声で怒鳴りました。

「川下の狐共が洪水に苦しんでも良いと申すか。仕事もない、金もないおぬしら狸どもの為にわざわざ土木工事を創ってやるのだ」と。

こうして池は出来たのです。電気を発するとかいう大きなおおきな壁が出来たのです。

 何年もが過ぎぬうち神座川はすっかり変わってしまいました。もう池より上流には、鮎も鰻も、川蝦も藻屑蟹も、なんにも遡っては来ません。かつては清冽な水をたたえた深い渕も飛沫盛んな瀬も土砂に埋まり、皆で遊んだ川はすっかり寂れてしまいました。池の下流はと云えば、水が澱み夏には悪臭が漂うようになりました。海も砂浜が痩せ、海亀が卵を産む場所すらもうありません。魚も捕れなくなりました。

 せっかく植えた杉や檜は外材に押され安く買い叩かれます。ぽんこつ山に若い狸や小狸は見かけなくなりました。仕事がないのです。都に出て僅かな小銭を稼ぐのが関の山です。年取った狸か、怪我をして都に居られなくなった狸だけが健気にぽんこつ山を守っています。でも一匹、また一匹と死んでいきます。ぽんこつ山の賑わいはお墓だけです。祭り囃子の笛を吹き太鼓を叩く若衆狸も、お神楽を舞う娘狸ももう居ません。秋祭りもすっかり寂しくなりました。

 狸の学校はとっくの昔に廃校です。

ぽんこつ山に子供達の歓声が響くこともありません。

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