第百九十五話:『うんこの話』

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“うんこ”は何でできているか?

皆様、ご存知ですか?

一番多い成分は、勿論、水分ですよね。水分含有量はひとそれぞれ、日々刻々、便秘か下痢かでも変化していますが、おおよそ60〜70%程度と考えてよいでしょう。次いで多いのは、腸内細菌や剥がれ落ちた腸の粘膜細胞です。これが30%程度を占めます。食べ物の残り滓は残り僅か5%ほどに過ぎません。うんこは消化吸収されずに残った食物の滓ではないのです。食べなくてもうんこは出るのです。

腸粘膜上皮の細胞は、絶えず新生と死を繰り返し、3〜4日で入れ替わる代謝回転(ターンオーバー)を行っています。多くの病原細菌はこの上皮細胞を活躍の場として利用しているため、この腸上皮細胞のターンオーバーは、病原体の感染初期に足場となる細胞を除去するシステムとしても重要です。面白い研究成果が報告されています。東京大学医科学研究所と科学技術振興機構の共同研究です。

赤痢菌は腸の上皮細胞内へ特殊な蛋白を分泌し、それによって腸粘膜上皮の細胞周期のターンオーバーを遅らせるらしいのです。そうすれば、赤痢菌にとっては人体への感染の成立に好都合ですからね。赤痢菌にとっては至極合理的なメカニズムですよね。

このようにどうやら腸内細菌と私たちの関係は切っても切れない関係にあるようです。私たちの腸の中にはおよそ1000種類、数にして1000兆個もの腸内細菌が生息するとされています。重量にして約1.5kg、これは肝臓の重量にほぼ匹敵する重さです。これほど多くの腸内細菌と共生することで、私たちは健康の増進も可能となりますし、また病気にもなってしまうのです。

例えば、死亡した乳児を対象とした東京都の調査結果によれば、母乳栄養、混合栄養、人工栄養の各栄養法による死亡率比は、成熟児については、ほぼ1:2:3、未熟児については、ほぼ1:2:4の値を示しました。

このように母乳栄養児の死亡率を下げている主役がビフィズス菌なのです。ビフィズス菌は母乳栄養児のうんこに多く存在しています。正常な母乳栄養児の腸内細菌叢(フローラ)はビフィズス菌が極めて優勢です。

腸内のビフィズス菌を旺盛にするためには、母乳に多く含まれる乳糖やオリゴ糖などが有効です。ビフィズス菌は乳糖やオリゴ糖などを分解して、乳酸や酢酸を産生し、腸内のpHを低下させます。これによって腸内の環境を整え、花粉症などアレルギー症状の緩和にも貢献していることが分かっています。ビフィズス菌は乳幼児に多いロタウイルスによる感染性腸炎を抑制する可能性も報告されています。

よく知られているように、私たちは自力では食物繊維を消化できません。大腸内の腸内細菌が嫌気発酵することによって、一部が酪酸やプロピオン酸のような短鎖脂肪酸に変換されて初めて、私たちはエネルギー源として食物繊維を吸収できるのです。食物繊維の大半はセルロースです。人間のセルロース利用能力は意外に高く、粉末にしたセルロースであれば腸内細菌を介して、ほぼ100%分解利用できると言われています。

デンプンは1gで約4kcalのエネルギーを産生しますが、食物繊維は腸内細菌による醗酵分解によって1gで約2kcalほどのエネルギーが得られるとされています。食物繊維の望ましい摂取量は、成人男性で19g/日以上、成人女性で17g/日以上です。食物繊維は食後長時間を経てから体内にエネルギーとして吸収される特徴を持つのでエネルギー吸収の平均化にも寄与しています。大腸の組織の代謝にはこの発酵で生成されて吸収された短鎖脂肪酸が主要なエネルギー源として直接利用され、さらに余剰部分が全身の組織のエネルギー源として利用されます。

ウマなどの草食動物ではこの大腸で生成された短鎖脂肪酸が主要なエネルギー源になっていますが、ヒトでも低カロリーで食物繊維の豊富な食生活を送っている場合には、この大腸での発酵で生成された短鎖脂肪酸が重要なエネルギー源となっています。

酪酸菌は、酪酸を生成する偏性嫌気性芽胞形成グラム陽性桿菌です。クロストリジウム属のタイプ種でもあります。芽胞の形で環境中に広く存在していますが、特に動物の消化管内常在菌として知られています。日本では宮入菌と呼ばれる株が酪酸菌の有用菌株として著名であり、芽胞を製剤化して整腸剤(ミヤBM錠)として、当クリニックでもよく処方します。

腸内細菌叢はまた多彩なビタミンの合成機構を有します。リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、パントテン酸(ビタミンB5)、ビタミンB6、ビオチン(ビタミンB7)、葉酸(ビタミンB9)、ビタミンB12、ビタミンKなどなど、旺盛なビタミン合成能力を発揮しています。ビタミンKは血液凝固作用(止血)に関係します。成人に於いては通常、腸内細菌による供給だけでも充分必要量を賄えますが、生まれたばかりの新生児では、まだ充分に腸内細菌叢が形成されて居ないため、これを充分に生産出来ない事から、腸内出血(血便)などの異常が発生しやすいのです。また成人でも抗生物質の乱用は腸内細菌叢が損なわれ、ビタミンK欠乏症が発生し得るのです。

どうでしょうか、たまには朝お出ましになったうんこ様に手でも合わせてみられては?まことに有難い存在なのですから。

神様、仏様、うんこ様、合掌!

 

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