第二百三十二話:『在宅医療 まだまだ』

Pocket

IMG_0134

大寒の候らしくとても寒い日々が続いておりますが、皆様お変わり御座いませんでしょうか。長らくブログの更新をさぼっておりましたが、久しぶりに思い立ってこうしております。

実は筍はいま少々落ち込んでおります。新年早々、在宅希望の患者さんを連続で再入院としてしまったからです。

 

お一人は60歳代の女性。子宮癌を患われて、手術、放射線治療や抗がん剤治療と、あらゆる手を尽くされたのですが、残念ながら癌の進行を抑えることができなかった方です。病院の医師から最早やるべきことがないと宣告され、残された時間をご自宅でゆっくり過ごそうと自宅に帰ったのです。縁あってか筍が在宅医として指名されました。

外来に通えるだけは通うからと、暫くは外来通院をしておられました。週に1回ほどのペースで数回通われましたが、急激な肝転移の増大に伴う右上腹部痛の悪化と、癌性腹膜炎による嘔気と嘔吐が制御不能となったのです。症状の悪化は当然のことながら不安と恐怖を招きます。

妻が自宅での最後を望むのならそうしてやりたいと、一旦は在宅医療に同意された夫も次第に葛藤が大きくなったようです。

癌性疼痛を麻薬系の鎮痛剤でなんとかコントロールしようと処方変更をしたその日の夕刻、夫からクリニックへ電話が入りました。

「こんな状態ではとても家にはいられない。本人も入院を希望したので今から入院させます」

悲しかったですね。何の力にもなれず病院でのご最後を選択せざるを得ない状況に至らしめたこと、全く筍は無力です。「緩和ケアは癌と診断した時から開始すべき」との言葉があります。癌治療のみに心奪われて、緩和ケアへの配慮が遅れると、こういった不幸なケースに遭遇することになります。

 

今お一人は70歳代後半の男性、切除不能の前立腺癌の患者さんでした。この方もあらゆる薬物治療を受けられたようですが、残念ながら癌の制御にはほど遠く、癌は膀胱にまで浸潤し、自力では排尿困難となり膀胱瘻が造設されたようです。ですが膀胱内に浸潤した癌病巣からの出血が度々起こり、膀胱瘻として挿入されたカテーテルの閉塞が頻繁でした。その都度、治療を受けている癌専門病院に緊急受診し、カテーテルの閉塞を何とか解除してもらっていたようです。

筍に在宅医として関わって欲しいとの依頼があったのは、そんな状況になってからのことでした。訊けば、近日中に再度入院のうえ、さらに抗癌剤治療を繰り返す予定とか。

「やれることはやってやりたい」

ご家族のこんな想いに沿ってのことらしいのです。ですがね、今までにも複数回の治療が既に終了し、めぼしい効果は上がっていないのです。「やれることはやってやりたい」との願いはよく解りますが、治療効果が期待できない抗癌剤治療が、果たして「やれること」に入るのでしょうか。単に抗癌剤の副作用で患者本人を苦しめるだけのことではないでしょうか。

当該病院の主治医と電話で話したおり、失礼にも筍はこう尋ねました。

「次回予定されている抗癌剤治療のレジメで、先生は果たしてどれほどの成算をお持ちなのですか。筍にはそのレジメではとても効くとは思えないのです」

怒り出されるのではないかと想像していたのですが、主治医は紳士でした。苛立つこともなく、「そうですね。大して期待はしていないのです。ご家族の手前仕方なくそうすることにしたのです」

結局、抗癌剤治療のための再入院まではそちらで診てもらうこととし、治療終了時点で、ご本人に在宅医療への確固たる意思がおありなら、喜んで在宅医を引き受けることをお伝えして、受話器を置きました。

 

在宅医療で最も重要な条件は、ご本人とご家族の在宅への明確な意思です。病院の先生に言われたから退院、退院後はよく判らないが紹介された開業医に診てもらうことになるらしい。こんなことではとても在宅医療が完遂できるわけはないのです。不安感を抱きながらの在宅では話になりません。よく調整された緩和ケアがあって初めて在宅で安心して過ごせるのです。

 

まだまだ乗り越えるべき条件が山積の在宅医療です。

平成29年1月26日(木)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

Scroll Up
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。