第九十九話:『朝の散歩への誘い その壱』

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 ご一緒に朝の散歩はいかがですか。上の写真を頭に浮かべて下さい。こういったところを歩くんです。天気さえ良けりゃあね、毎日です。実にいいとこですよ。頭にイメージは浮かびましたか。そう、それでいいです。ほらっ、聞こえますか。鶯や、いろいろな野鳥の囀りが聴こえてきましたか。そうですか。さあ、それじゃ準備完了ですね。

 起きて下さい、もう五時半です。急いで着替えして。六時前には出発しますから。まだ、辺りは少しばかり暗いけれど、いや大丈夫、直に明るくなってきますから。ほら、東の山の端はもう微かに白んでるよ。でも谷を渡る風はまだまだ冷たいね。手袋は持ってるかい。忘れ物はないかい。さあいこうか。

 それにしても閑かだねえ。ひとも車も滅多に通らないものね、ここいらはさ。山の匂いがするね、草の匂いとはちょっと違うの、判りますか。言葉では説明が難しいけれどね。この山の匂いがね、何ともいいんだよね。いや、草の匂いは草の匂いでとってもいいんだけどね。あっ、いま聴こえた?うぐいすが鳴いたでしょ。ほら、ほらっ、今度は向こうの山で鳴いたね。それにしても鳴き始めの頃から比べると。随分上手くなったね。

 もう少し行くと道のかたえに椿の大きな木があってね。二、三日前から真っ赤な花が咲き始めたから見て下さい。綺麗ですよ。すぐ向こうの角を回ったところだよ。ほらあそこに見えてきたでしょ。立派な樹でしょ。珍しいほど大きいよね。いや、あの家はいまはもう誰も住んでない廃屋だよ。三年程前までは婆さまが独りで住んでたんだけどね。だんだんと独り暮らしが困難となってきてね、都会に住む息子のとこへ泣く泣く連れていかれたんだよ。まだ元気にしてるんだろうか。綺麗でしょ、この椿。毎年毎年、実に見事な真っ赤な花を咲かせてくれるんだ。楽しみなんだよね、咲き始めのこの時期が。たまに一、二輪手折ってね、自宅の玄関やら診療所の一輪挿しに投げ込んで楽しませてもらってる。

 あっ、すぐそこで鳴いている。そーっと、しーっ、音をたてないで静かにね。どこにいるんだろ。判んないね。もう手の届きそうなとこだけれどね。あっ、いま飛んだ。あの鶯だったんだ。いい声してたねえ。そう、ここらの鶯はねえ、囀りが山に谺し谷に響きわたるから、街の公園や庭で聞かれる鶯の囀りとは声の響きが全然違うよね。いいもんでしょ、四方八方から響く鶯を聴き乍ら歩くのって。

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