第二百一話:『馬鹿もほどほどに』

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ある婆様の口癖、「今日は今までで一番調子が悪い。もう倒れてしまうんじゃなかろか」、と言い続けてかれこれ一年が経ちます。

独り暮らしの寂しさに、どうにもうつ状態に陥りやすいのです。ですが診療所には足繁く通ってきます。

背骨がひどく曲がっています。膝もがに股で、ドッジボールがすり抜けてしまうくらいのO脚です。当然、疲れてくるとふらつきが出ます。痛みも出ます。

年齢の割には早すぎるフレイルなのです。毎日の筋トレが何よりだと、口を酸っぱく指導しています。

筋肉を鍛えないとどうにもならんよと、時には優しく、時には厳しく、根気よく指導を続けています。

でもね、毎日毎日、同じことの繰り返し。もういったい、何百回唱えたことでしょう。

「今日は今までで一番調子が悪い。もう倒れてしまうんじゃなかろか。昨日も夕方からもう寝とった。飯を喰うのも邪魔臭かった」

「あんたは当分倒れやせんて。ひとに頼っていてもなんともならん、自分で自分を鍛えなければ、誰も助けてはくれやせんぞ」

「そのうちきっと死んじゃいそうだ。どこか大病院で診てもらったらというひともいるんじゃが」

「病院へ行くって、あんた。いったい何を治してもらうというんじゃ。あんたが治すべきは心の弱さじゃ。ひとに頼ってばかりじゃどうにもならん。あんたが心配している通り、あんたも間違いなくいずれは死ぬぞ。じゃがな、それはまだまだ先のことだ。いまからなにを狼狽えとるんじゃ。生きていられる幸せを考えたらどうじゃ。生きとるうちは、ひとさまのなにか役に立つようなことをしたらどうじゃ。どんな些細なことでもええんじゃ。感謝はされるもんじゃのうて、するもんじゃ。ええか、ひとに頼るんじゃのうて、ひとさまに感謝しながら生きるんじゃ。それが人間というもんじゃ。ええな」

毎日毎日、診察室でこの呪文の繰り返し。

ほどほどにして欲しいんですがねえ。

小金持ちの年寄りの自己負担は3割にすべき。

八十過ぎたらがん検診など不要。

もういいでしょ、いったい、いつまで生き永らえようとするんじゃ。

馬鹿もほどほどにね。

逝くときには逝こうよ、素直にさ。

 

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