第十三話:心不全の吉蔵爺さん

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        この赤さ 凄いよね 

 

 慢性心不全の急性増悪で呼吸不全を併発し緊急入院となった吉蔵爺さんの主治医より電話です。何とか心不全も小康状態となったのでそろそろ退院させたい。ついては週3回ほどでよいから、自宅で点滴をしてやって欲しいとの趣旨でした。

 筍は訊ねました。週3回の点滴が必要な理由はと。

 主治医は云われるのです。点滴をしなければ尿量が維持できない、週3回200ccか250ccの点滴で十分ですと。

 重ねて訊ねました。腎機能は如何ですか、自由水クリアランスのデータはどうなんでしょう。

 やってないとのことでした。でも点滴をしないと絶対維持できないと繰り返し主張されます。

 主治医の先生に頼みました。どうしても点滴が必要な状態であるのなら、せめて連れ合いの婆さんに、点滴の基本的知識と手技を教えてから退院として欲しいと。

 点滴が漏れたときにはどうするか、大事な基本的手技です。点滴の注入速度が速すぎないように監視する能力も必要です。

 確かに病院医療においては点滴の施行など容易な手技の一つです。医者が点滴の薬剤を処方し、、薬剤師さんや看護師さんが調整してくれた点滴を、患者さんにセットしさえすれば済むことです。後は仮に点滴が途中で漏れたとしても、注入速度が合わなくとも、看護師さんがきちんと対応してくれます。

 ですが、在宅となるとそうはいきません。点滴が終了するまで看護師さんをずっと貼付けておく訳にはいきません。点滴が漏れたとか、止まったとか、想定よりもかなり早く終了してしまったとか、何かの緊急事態が起こっても、駆けつけるまでに時間がかかるのです。

 きちんと在宅での治療と処置の必要性を吟味し、危機管理を万全なものとしなければなりません。安心・安全な在宅医療に移行するためには、在宅での状態を予測し、あらかじめ、患者さんと家族に最低限の基本的知識と手技を身につけてもらう必要があります。それさえ実現できれば、在宅への移行が円滑なものとなります。病診連携の基本がここにあります。

 今回、ご紹介したケースは、お二人とも後期高齢者、二人住まいです。軽い認知症の兆候も認められるのです。そんな二人に点滴の基本的重要事項さえ教育もせずに、あとは元のかかりつけ医に診てもらえとばかりに、患者さんを放逐するかのごとく退院を急ぐのは我慢できませんでした。

 何よりも医者にとっての点滴など訳もなく実に容易なことですが、受ける側にとっては数時間に亘って腕を動かすことも出来ぬ強制です。苦痛以外の何ものでもないのです。せずとも済むものならしないほうがよいのです。ましてや高齢者です。安易な点滴の導入はリスクを増やすばかりで、メリットが少ない場合も多いのです。学問的根拠のない経験則的なことでは困るのです。何よりも入院生活と自宅での生活は、生活リズムにせよ、食事にせよ、がらっと変わるのです。入院しているときの状態とは異なるのです。

 吉蔵爺さんは今も元気です。あれからもう半年が経過します。点滴はして居りません。婆さんと二人でひっそりと平穏です。お二人が座って居られるところは、まるでお地蔵様のようです。

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