第百七話:『弥生三月雨の候』

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 今日は朝から春の雨

 わがこゝろにも雨が降っております

「わが背子が 衣はる雨 ふるごとに 野辺の緑ぞ いろまさりけり」

                            紀貫之

 春の雨の呼び名は数多い。誠に興味深い呼び名もいくつかあります。

中でも多いのは花にまつわるもの。「迎梅雨」、「育花雨」、「杏花雨」、「桜雨」、「催花雨」、「花時雨」、「養花雨」、「紅の花」など。

ところで、「発火雨」って雨、どんな雨のことか、ご存知ですか?発火雨とは桃の花に降り掛かる雨のこと、桃の花が一斉に花開き、遠目にはまるで燃え盛る火の如く見えることからの言葉、いいじゃないですか。

次第に暖かくなってくる時候の言葉としては、「寒空けの雨」、「甘雨」、「軽雨」、「暖雨」、「膏霖」、「春驟雨」、「春時雨」、など。

では「万物生」とはどんな雨のことか、ご存知ですか?「万物生」とは生きとし生けるものすべてに新たな生命力を与える春の雨のこと。

まさかと思われるような春の雨もあります。それは「高野のお糞流し」。高野のお糞流し(こうやのおぐそながし)とは奈良県南大和郡の言葉。「こうや」は高野山。陰暦三月二十、二十一日に降る雨。厠が転じて便所を「高野」といった地方もあるので、それと掛けているのだとされます。あまり喩えとしては使いやすいものではありませんね。

梅若の涙雨というのもあります。梅若丸は、謡曲「隅田川」に登場する悲劇の少年の名前。梅若丸は、京で人買いに攫われて東国に下り、重病を患い足手まといになり隅田川に投げ込まれたのです。なんとか里人に助けられましたが、結局は亡くなってしまいます。この梅若を哀れんで、塚がある東京都墨田区の木母寺で四月十五日に供養の大念仏会が催されます。この日、梅若の悲しい運命を悼み、天が雨を降らすと謂われております。

こんな言葉の数々を眺めていると、「ああ日本人に生まれてよかったなあ」、なんてしみじみ思います。

春の雨の呼び名はこんなにあるんです。

この感性の煌めき、いいよねえ。

「春雨や酒を断ちたるきのふけふ」   内藤鳴雪

「春雨やもの書かぬ身のあはれなる」   正岡子規

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