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例年、次のシーズンのインフルエンザ・ワクチン株の選定は、世界保健機構(WHO)が集約した情報や、周辺国のウイルス株の解析結果などを参考に、例年2月上旬から3月下旬にかけて、国立感染症研究所が主催する「インフルエンザワクチン株選定のための検討会議」で決定されます。

 

今年6月1日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発および生産・流通部会で、来シーズン(2015/16年)のインフルエンザワクチン株についての説明がありました。

 

それによりますと、これまでは3種類(3価)だった抗原が、4種類(4価)に変更されました。従来は3価でしたから、ワクチンに盛り込める抗原量にも制限がありましたが、今年度よりこれを緩和して、4価のワクチンが漸く実現したのです。

 

今年秋のワクチン接種から4価ワクチンが接種されます。昨シーズンのワクチンの組成と今シーズンのワクチンの違いは次の通りです。

 

2014/15年冬シーズン

A/カリフォルニア/7/2009(X-179A)(H1N1)pdm09

A/ニューヨーク/39/2012(X-233A)(H3N2)

B/マサチュセッツ/2/2012(BX-51B)

 

2015/16冬シーズン

A/カリフォルニア/7/2009(X-179A)(H1N1)pdm09

A/スイス/9715293/2013(N1B-88)(h3N2)

B/プーケット/3073/2013

B/テキサス/2/2013(ビクトリア系統

 

これでお判りのように、AH3亜型のワクチン株をニューヨーク株からスイス株へ変更したことも大きな特徴です。

 

昨シーズンのワクチンは流行が始まった頃こそ、AH3亜型の流行株とワクチン株との抗原性の一致率が高かったのですが、その後、流行株の解析のたびに一致率は低下していったのです。ワクチンを打ったのにインフルエンザに罹ったという人が多かったはずです。

 

「10年に一度といわれる抗原ドリフトが起こった」のです。ワクチン株を選定する際には非常に稀だった株が、結果的には流行株になってしまったのです。

 

「抗原ドリフト」とは、抗原の一部分が変わる変異をいいます。従来は多少の変異があっても、ワクチン効果に大きな影響は及ぼさないのが普通でした。しかし、昨シーズンは違いました。流行株の8割近くが抗原変異株だったのです。ワクチンが効かなかったはずです。

 

それにしても昨シーズンはインフルエンザの流行は何かと異例ずくめでした。例年よりも1ヶ月も早く流行が始まったこと、流行のピークになってからは急速に患者数が減少し収束したこと、例年見られるシーズン後半のB型インフルエンザの流行はごく散発的なものに過ぎなかったことなどなどです。

 

インフルエンザ・ワクチンの有効性については何かと議論の多いところですが、より広い抗原スペクトルを持つワクチンの開発が望まれます。抗原が変異しても対応できるワクチン:経鼻ワクチンへの期待は大きいものがあります。

 

経鼻ワクチンは我が国では未だ未承認ですが、すでに欧米では弱毒性生ウイルスの経鼻ワクチンが実用化されています。生のウイルスを用いるため、広い交差反応性を持つ抗体、つまり抗原スペクトルの広い抗体が誘導でき、流行株の抗原性が完全に一致しなくとも有効性が期待できるのが最大の特徴です。

 

我が国においても経鼻インフルエンザ・ワクチン(フルミスト)を個人輸入して希望者に接種している医療機関も増えています。ただし問題はいかに弱毒株といっても生ワクチンであるということです。接種によってインフルエンザ類似の症状を発症する危険性があるのです。乳幼児と高齢者にはお勧めできません。

 

日本が世界をリードするもう一つの経鼻ワクチンの開発が進んでおります。「不活化型+生体成分類似アジュバント方式」のワクチンがそれです。鼻腔内の粘膜免疫に着目し、インフルエンザに対抗するIgA抗体の誘導をより強めるためにアジュバントを加えたものです。

 

より効果的で、より安全なインフルエンザ・ワクチンの開発を目指すこれらの研究の成果が待たれるところです。

 

今年も10月初旬から11月下旬までにはワクチン接種を済ませたいものです。

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