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「いや、大したことねえんだ。父ちゃんがそりゃえれえことだっちゅうて騒ぐもんだで。わたしゃ我慢する云うとるのに、せんせんとこ、電話するもんだで。いえね、もう三十年ほど前にいっぺんだけ気い失ったことあるんだよう、いや秋刀魚食べてなあ。食べて一時間もした頃から急にかだら中にぶつぶつが出てきて、かいいの、かいないの。そのまま倒れたらしいけど、あっしはなぁーんも覚えとらん。近所の人たちが大騒ぎして車で病院まで載せてったらし。病院着く頃には意識も戻っとったけどな」

「あんなあ、“ほろし”は一体いつから出て、いまはどんなじゃと訊いとんじゃ。出とるとこ診せてみい」

「いや、いまは何ともないんじゃ。“ほろし”が出たんはさんご(三日)ほど前のことだで、昨日はちっとおさまっとったで、そのままほかしとっただ」

「三日前からなの?電話じゃ、夕食後にかいなったっていうとったじゃないか」

「いや、さっきはちょっとかいかったけど、もう大丈夫なんじゃ」

 

いったい、こいつらの頭はどうなっとるんじゃ。筍を揶揄っとるんじゃなかろか。

「ともかく、“ほろし”が出たとこ、診せてみい」

筍もいよいよ機嫌が崩れてきました。おっかあは日焼けした逞しい両の二の腕を捲り上げ、上着もたくしあげて、垂れて萎びた、でも矢鱈と巨大なおっぱいをむき出しにした。診れば、確かに蕁麻疹によると思われる膨疹が所々癒合して赤く盛り上がって、いかにも痒そうです。

「こりゃ何とも立派な蕁麻疹だねえ。ところで今晩は何を食べたんじゃ?」

「鯖の炊いたんをほんのちっとばかし食べただけじゃ。このくれえの“ほろし”はあっしは大丈夫だで。我慢できるうちは我慢するで」

「おいおい、じゃあ何の為に暗うなってから診療所にやってくるんじゃ。薬は要らんのか」

「薬ぐれえ貰ってやらんと、せんせも儲からんし、まあ貰うてこか」

「別に儲けんでもええんじゃよ。あんたらが診て呉れ云うたもんじゃから診たんじゃねえか。薬も要らんけりゃ、もう帰ってええぞ」

 

とっつぁんが呟いた。

「折角こんな時間に診てもろたのに、薬も貰わんで帰るんは何とも疎いことするもんじょ。かかあも耄碌したんかや」

「耄碌したんはあんたじょ。あっしが行きともねえゆうたのに、無理矢理電話するもんだで。でもよ、せんせ。薬は貰えんかのし。ほんといやあ、昨日も痒うて眠れんかったんじゃ。よう効く薬はあるんかのし。そん薬はたけえんか」

 

何や筍の頭の中に“ほろし”が出そうじゃ。それにしても何故にこうも話が飛ぶんじゃろ。まるで話が北極か南極じゃ。ここは熊野・・・の筈じゃが。違うたかの?

 

 

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