ミツバチの仲間は世界中で、ヒメミツバチ、トウヨウミツバチ、セイヨウミツバチ、オオミツバチの4種類。ニホンミツバチは日本列島に生息するトウヨウミツバチの一亜種。九州から下北半島までその分布が確認されるが、沖縄と北海道には報告がない。
江戸時代には、紀州藩で養蜂が盛んに行われたが、明治時代になってセイヨウミツバチが移入されると、養蜂にはもっぱらセイヨウミツバチが利用されるようになり、ニホンミツバチはかろうじて山間地でその飼育が残るだけという状態。ニホンミツバチは蜂蜜の採取量が少なく、何かの理由があるのでしょう、あるとき突然にそれまで住んでいた巣穴から逃亡するという性質があるという。
ニホンミツバチの飼育は分蜂した群れを簡単な箱に取り込み、放置しておくという殆ど自然に任せたもの。それらの群れから分蜂した群れが自然に還り、また野生の群れを取り込むということで、ニホンミツバチはヒトの生活と共生してきた。自然の森に生える草木の花の蜜を得てその種を保持、ニホンミツバチのことを山ミツバチと呼ぶのは誠に理にかなったネーミング。
“ごおら”はニホンミツバチの巣箱。杉の丸太でつくられた高さ50cm程の、中を刳り貫いた中空の器。5mmほどの出入り口を下に穿つ。紀州の山奥へ行けば、いまでも山の斜面の至る所に“ごおら”を見ることができる。
セイヨウミツバチやニホンミツバチは、花の蜜や花粉を餌にして生活している。セイヨウミツバチはさらにプロポリス(樹脂)を厚め巣材にすることが知られているが、ニホンミツバチはプロポリスを集めない。巣の中には1匹の女王蜂、産卵するだけで餌は働き蜂から貰う。フェロモンと呼ばれる物質を出し、巣内の他の蜂の行動を支配する。女王蜂が巣から居なくなると巣の中のハチは統一した行動ができない。働き蜂は蛹から羽化した日齢によって、働く内容が異なる。最初は巣の中にいて掃除や給餌に働き、そして最後は外勤ハチとなって花粉や蜜集めに働く。
春になって日が長く、気温が上がると、女王蜂の産卵も盛んになり、巣内が働き蜂で一杯になる。すると巣板の下部に王台が作られ、暫くするとそこから新しい女王蜂が誕生する。親にあたる女王蜂は、新女王が誕生する4、5日前になると、群れの半数の働き蜂を率いて巣を出る。これを分蜂と呼ぶ。女王蜂が引き連れていくのではなく、先ず働き蜂が先に巣から出て、女王蜂はあとから巣を離れる。分蜂は蜂の群れを増やすための手段。ミツバチにとって個体数が増えることも大切だが、それよりも群れが増えることのほうが種の存続にとってより重要なこと。分蜂はミツバチの種族保存の大切な現象。
分蜂した群れは外に出て蜂球を作る。ニホンミツバチの蜂球は樹の太い枝や家の梁などに作られる。一度蜂球を作り、探索蜂が巣作りに適した場所を見つけてくるまで静かに待っている。お腹に一杯蜜を食べて分蜂するので大人しい。樹の榁など適当な場所が見つかると、全部の蜂が飛び立ちその場所に向かう。
丁度今頃は分蜂の時期。紀州の爺様・婆様達はいつ分蜂するか判らないそのときをただひたすら待つ。いまかいまかとその刻を待って、巣箱近くで何時間も待つ。だから蜂飼いの爺婆はこの時期は診療所には顔を見せない。
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