海のもんなど今まで喰うたこともなかった太郎にはどれもこれもがわえくちゃ旨かったんじゃと。なかでものう、穫れたての魚のお造りの美味いことといったら、顎落ちるんじゃなかろかと心配になるほどじゃったげな。 「おい…

  どれほど昔のことじゃったか、今ではもう定かではないがの。 木の國大塔山の中腹辺り、源流近くの滝の脇に二人の男の子を抱えた樵があったげな。樵は二人の男の子の成長だけを唯一の楽しみにしての、毎日、毎日、山仕事にそりゃあ精…

  松根部落のある爺さんに「十八淵」を案内して頂きました。集落からさらに4km程も上流に遡った道路脇にその淵は実在しておりました。急な斜面を滑り落ちそうになりながら木々に掴まりながら恐る恐る淵へと向かいます。さ…

どれほどの月日が流れたことじゃろ。山がまるで錦の打ち掛けを羽織ったような紅葉の盛りのある夜更け、お蔦はいつもの如く布団の中、光り輝く玉を両の掌で包み込んで、うっとりとしておったげな。 ところがじゃ、その日に限って玉は光ら…

  どれほど昔のことじゃったか、今はもう定かではないがの。 木の國大塔山の麓に、お蔦というたいそうべっぴんな娘があったげな。山奥の、またその山奥の、またまたその山奥のこととて、つれもて遊ぶ友達もおらんじゃった。…

  筍が数年前まで勤めておりました東牟婁郡古座川町は、過疎と高齢化が極限まで進んだ僻地です。世界遺産に指定され昨今は訪れる人もかなり多くなった熊野川沿いとは大違いです。 太古の昔からそうであったように、いまもひっそりと山…

  待つ程もなく、写真が現像されてきました。てっつぁんを診察室に呼び込みました。 「せんせっ、バリウムちゅうもんは不味いもんやのう。もちっとましな味を付けといてくれりゃあ、いくらでも呑んだるんやけどのう。それと…

  黄砂に煙る穏やかな春の朝、再び、てっつぁんの登場です。今日は胃透視のための再診、お腹の具合がどうも芳しくないようです。正月の納豆の祟りかもしれません。 「調子はどう?起きてからなんも口にはしとらんだろうね」…

春風とともに、えろう久しぶりに、てっつぁんがやってきました。もう七十五歳にもなろうかする樵です。筍診療所の中でもとりわけ際立ったキャラの爺さんです。 「どうしたの、どっか具合いでも悪いんかい」 と筍が訊ねます。 「いやあ…

  寅次郎は今年83歳、もう長いこと高血圧で通院中。 寅さん、ある日、云いにくそうに切り出しました。 「せんせ、待合いの血圧計狂っとるんではないかのう」 「えっ、そんなことないと思うけどなあ」 「でも家で測るん…

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