第二十三話から第三十三話まで連載した『おかあさん大好き、お母さんありがと』は、かつて筍が大学病院勤務の頃にやっておりました在宅ホスピスでの実例です。奥様と娘さん二人でご主人を看取られたときの…

こんな時間だから先生に連絡をするのも躊躇われた。家族だけで死んだ父を囲んでいるのは何となく落ち着かなかった。朝七時になって連絡をしたらすぐに来て下さった。私たちがいくら押さえても閉じきれなかった父さんの両眼をすっと閉じて…

『スズメウリ』   五月二十七日、一日中唄っている。身振り手振りで節をつけて、いろいろな歌やら詩吟やらを唄っている。時々友達の名前も出てきて、楽しい夢を見てる様子。点滴もなく、口から水分も殆ど入らない。意識が朦朧としてい…

 五月二十二日、珍しく朝方までことりと音も立てずに眠る。私も一緒に寝てしまう。午前四時過ぎ、ふと目を覚ますと奇麗な優しい目をした主人が私のほうを見ていた。はっきりとした声でこう云った。 「お母さん、長い間ごめんね。ありが…

 昼は少し眠れるようだが、夜は目が冴えてしまうようだ。「赤ちゃんみたいやな」ってひとごとのように云っている。夜中にこっそりとおしっこをしている気配に目が覚めた私に、「ごめんな、起こして。父さんは昼間眠れるけどおまえ寝られ…

 次の日から在宅医療が始まりました。片桐さんが毎日点滴をしてくれるようになりました。点滴をするようになって父は何も食べなくなりました。麻薬系の鎮痛剤のせいか、何か朦朧としているようです。 「博子、お父さんておかしくないか…

 あの日、帰りが遅い二人を心配して父が玄関先でうろうろしていました。泣き腫らした顔の二人を見て、父はそれでも安心したのか、なにも訊ねず居間に戻っていきました。  それから1週間後のことでした。お父さんとお母さんと三人でも…

 五月五日、世の中はゴールデンウィークに浮かれているが私たち家族だけが苦しい思いをしているのか。今日はお店も休みなので佐藤君が仙骨に連れて行ってくれる。物凄いひとで待ち時間が長くとても辛そう。こんなのしたってなんにもなら…

   四月四日、病院玄関へと続く桜並木が満開です。お花見だけに来られる家族や老夫婦が羨ましい限りです。最近、小山田先生から詳しい病状の説明がないので少し不安です。何となく先生の診察がおざなりな感じがするのは私の…

 術後経過はそれは順調だった。御飯も美味しく食べてくれた。 「なんでお父さんだけこんなに食べられるのかな。ほんまに胃とったんか」 何度も尋ねられた。その度に凄く辛かったけど嘘をつきとおした。 お父さんが昨年から楽しみにし…

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