平井川地区の集落のはずれ、山のすぐ麓にその「庵寺」はありました。ちょうど初夏の好天に恵まれ、墓所を訊ね歩いていると少々汗ばむほどの陽気でした。 少し高台にあるその庵寺の猫の額ほどの境内からは谷筋の疎らな集落が見渡せます。…

「てきゃ(あのひと)のう、わえくちゃじゃあ。毎日、毎日、明るいうちから酔いさらして、涎喰うて(涎垂らして)寝ちょるんじゃ」 「どがいなもんじゃろのう、でもおもしゃいで。てきゃのう、とんがらしを肴にして、股ぐらに濁酒抱えて…

   かず婆さんは今年八十歳、最近いよいよ腰が曲がってきて、蝦の二つ折りのようです。先日、お風呂場で足を滑らせて尻餅をついた拍子に左手関節をしたたかに打ち付けてしまったらしい。近所のひとが診療所まで運んできました。 「だ…

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