第二百三十五話:『在宅医療はまだまだだね』

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ある大学病院の緩和ケア病棟から在宅にての看取りを希望される患者さんの紹介がありました。「死ぬなら家で」との患者さんの強い願いと、それを叶えたいというご家族の希望があったそうです。癌の末期で、肝転移による肝不全の患者さんでした。

残された時間はさほど長くはないようでした。大学病院の緩和ケアの主治医の見立てでは良くて後1ヶ月ほどだろうと。念のためにご家族にクリニックまでお越し頂きました。ご本人の意思がしっかりとしたものであるのかどうか、ご家族の在宅での看取りの希望が確固たるものであるか否か、その二点の確認のためです。

問題が一つありました。それはご自宅がなんと半田市内ということです。知多中央道を使っても片道約四十分はかかります。一般的に往診の許容範囲は車で片道三十分以内とされています。何かあったら駆けつけるにも少し遠すぎます。

ご近所に在宅末期癌ホスピス・ケアを引き受けてくれる先生はいないのでしょうか。半田市在宅支援センターにも連絡をしてそのことを確認しましたが、なかなか引き受け手はいないとのことでした。訪問看護ステーションも連携に慣れたところが良かったのですが、遠方すぎてこのあたりの訪問看護ステーションはどこも尻込みされてしまいました。仕方なしに半田の支援センターから紹介頂いた訪問看護センターと提携することとしました。

ご本人のご希望に沿うには当方が受けるしかありません。大学の地域連携室と連絡を取り、当方はいつでも受け入れ準備ができた旨伝えました。しかし、大学側は2,3日待ってくれとのこと。いったい何を考えているのかと、訝しい思いで担当職員にその辺の事情を尋ねてみました。

すると、なんと、点滴ルートを作製するので少し時間がかかるとの返事。患者さんにはもうあまり時間がないのです。点滴ルートなど必要ないのです。末期癌患者さんには輸液は有害無益でこそあれ、良いことは一つもありません。浮腫や腹水を増強するのみで、何の役にも立たぬのです。

食べられないから栄養補助。飲めないから点滴などなど。やれることがあれば、それが患者のためにならぬことでもやりたがるのですよね。悲しいけれど、それが大方の病院の流儀です。緩和ケア病棟でもこの有様です。

 

ではできるだけ早く退院調整をしてくださいとお願いして、退院してこられるのを待っておりました。ですが、週が明けても、月曜日は事務的に無理、火曜日は主治医が学会出張のため不可能とか。いったい患者さんの残りわずかな時間をどう考えているのでしょうか。やきもきしながら退院の日を待ち続けました。それでも何とか無事退院の日がきました。早速片道40分以上かけて往診いたしました。初めての対面です。患者さんもご家族も、いったいどんな医者が診てくれるのか、不安にお思いでしたでしょう。型の如くに診察をさせていただき、その後はご家族への在宅ホスピスケアの心構えを説明いたしました。約1時間ほどの滞在でした。初回の往診はかくして終わりました。次の往診は明後日にとお約束して帰りました。

 

あと何回の往診が残されているのか。病状篤く、あまり多くは期待できません。おそらく数回で終わるのではないかと想像しておりました。

 

案の定、退院わずか二日後の深夜でした。急変したとのことで駆けつけました。すでにお亡くなりでした。幸い閑かな死であった様です。ですがね、わずか数回のご家族と患者さんとの面会では、十分な人間関係など構築できるはずもありません。これではよりよい在宅は無理なのです。せめて1ヶ月ほど余命が残されているくらいのうちに、家に帰してあげて欲しいのです。病院の先生方、職員の皆様方、何とか判って頂けませんでしょうか?

 

 

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