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 当事者の主張としては、施設側は介護ケアサービスとして入所者のポータブルトイレの清掃を定時に行うべき義務があったのにこれを怠り、利用者自らが捨てにいくことを余儀なくされ、これによって事故が発生した。これは移動介護義務と安全配慮義務を果たさなかったためである。また工作物の設置と保存に関して、老人保健施設は身体機能の劣った状態にあるよう介護老人の入所施設であるという特質上、入所者の移動に際しては身体上の危険が生じないような建物・設備構造が求められている。処理場の出入口には仕切りが存在し、下肢筋力が低下した要介護老人の出入りに際して転倒等の危険を生じさせる形状の設備であり、工作物の設置と保存の瑕疵に該当すると主張。

 施設側の主張としては、足下のおぼつかない要介護者に対しては、ポータブルトイレの汚物処理は介護職員に任せ、自ら行わないように指導していた。仮にポータブルトイレが清掃されなかった場合でも、自らポータブルトイレの排泄物容器を処理する必要はなく、ナースコールで介護職員に連絡しこれを処理させることが出来たはずである。ところが事故発生日に原告が介護職員にポータブルトイレの清掃を頼んだ事実はない。従って、入所者のポータブルトイレの清掃を定時に行うべき義務と事故との間に因果関係は認められない。施設側の見解としては、処理場内の仕切りは汚水等が処理場外へ流れ出ないことを目的とするもので、構造上は問題ない。入所者・要介護者が出入りすることは想定されていない。従って、工作物の設置・保存の瑕疵には該当しない。

 裁判所の判断は以下の通り。記録に寄ればポータブルトイレの清掃状況は、外泊期間を除いた29日間(処理すべき回数53回)のうち、

 ポータブルトイレの清掃・処理 23回

 トイレの中を確認       15回

 声を掛けたが大丈夫との確認   2回

 処理なし            3回

 不明             10回

であり、必ずしも介護マニュアルに沿って実施されていた訳ではなく、実施したかどうかの記載がないこともある。居室内に置かれたポータブルトイレの中身が廃棄清掃されないままであれば、不自由な身体であれ、老人がこれをトイレまで運んで処理清掃したいと考えるのは当然である。

 施設側は「自らポータブルトイレの排泄物容器を処理する必要はなく、ナースコールで介護職員に連絡しこれを処理させることが出来たはずである」と主張するが、上記のように介護マニュアルが遵守されていなかった状況では、原告がポータブルトイレの処理と清掃を頼んだ場合に介護職員が直ちに、かつ快く、その求めに応じて処理したかどうかは疑問である。従って、入所者のポータブルトイレの清掃をマニュアル通り定時に行うべき義務に違反したことによって発生した転倒事故といえる。また、老人保健施設は身体機能の劣った状態にあるよう介護者が入所するのだから、その特質上、入所者の移動ないし施設利用等に際して、身体上の危険が生じないような建物構造・設備構造が特に求められる。ところが、入所者が出入りすることがある処理場の出入り口に仕切りが存在すると、下肢の筋力低下が見られる要介護者の出入りに際して転倒等の危険を生じさせる可能性があり、工作物の設置または保存の瑕疵に該当するので、施設側の賠償責任は免れないとして、原告請求分1055万円のうち、537万円の支払いを命ずるとした判決がなされた。

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