物部修さんは老齢のてるさん(仮名)との二人暮らし。息子、娘たちはすでに結婚して遠い都会暮らし。修さんが八十六歳、てるさんは八十三歳。修さんは糖尿病と脳梗塞後遺症で左片麻痺で歩くのもやっと、寝たり起きたりの毎日。てるさんもさほど元気ではありません。
二週間に一度、筍が往診をしていました。ですがね、寄る年波には勝てず、次第に日常活動に制限が多くなっていきます。よく転ぶようになりました。打ち身が絶えません。ふらつく修さんを支えるほどの力は奥さんにはありません。食事の際にはよく噎せます。噎せた時には胸をさする程度のことしかできません。
もう二人だけの生活は無理ですと、息子さんや娘さんに伝えてはいたのです。でもそれぞれに家庭もあり仕事もある。なかなか支えにはなれません。筍はやきもきしておりました。
ある日、いつも通りの往診日。勝手知ったる物部さんの玄関を開け、三和土に靴を脱ぎ、部屋へと。2DKのアパート、一部屋は炊事場というかダイニングで4.5畳、今一間が寝室兼居間の6畳、今一間はほぼ物置状態。脇に小さなトイレと狭いお風呂があるだけ。部屋の真ん中にはセミダブルの大きなベッド、ほとんど部屋いっぱいの有様。
「物部さん、こんにちは。調子はどう、変わりはないですか?」
と尋ねる筍に、てるさんが替わって答えます。
「昨日から何か元気なく、あんまり食べないし…」
型通りに聴診、触診と診察を進めます。確かに反応がいつもより乏しいようです。熱は平熱、血圧問題無し、チアノーゼもない。さしたる変化は筍には感じられませんでした。
「あまり心配なら病院へ搬送する手もあるが、どうしましょう?」
「でもねえ、病院は嫌だといつも言ってますし、この前の入院の時には夜大暴れして困り果てたし…」
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