「孤独」    孤独が 孤独を 産み落とす    ごらん    ようやく立てたばかりの幼児の顔の    時として そそけだつような寂しさ    風に 髪なんぞ ぼやぼやさせて    孤独が 孤独を 産み落とす   …

   「友人」     茨木のり子    友人に    多くを期待しなかったら    裏切られた!と叫ぶこともない    なくて もともと    一人か二人あらば秀    十人もいたらたっぷりすぎるくらいである    た…

「知命」   茨木のり子 他のひとがやってきて この小包の紐 どうしたら ほどけるかしらと言う 他のひとがやってきては こんがらかった糸の束 なんとかしてよ と言う 鋏で切れいと進言するが 肯じない 仕方なく手伝う もそ…

 例年、立春から雨水が近づく頃になると、いつもある詩人のことを思い出します。 茨木のり子さんです。御命日が如月の十七日。ご自宅でお独りで亡くなられていました。享年七十九歳でした。 いかにも茨木のり子さんらしい御最後で、貴…

せっかくやって来たのです。診察台に上がってもらいました。型の如くに診察を進めていたら、お滝婆さんがさも気の毒そうに筍に云うのです。 「せんせも因果な商売やなあ。こんな皺くちゃな乳触らないかんし、臭うて穢い爺さんも診にゃな…

  お滝さんは今年八十路、いまだ矍鑠たる婆さんです。時々、診療所を訪ねてくれます。 「どうした。どっか具合でも悪いんかい」 診察室の椅子にちょこんと座ってニコニコしてます。 「いえね、せんせ、今朝、集会所の前を…

その夜のことでした。筍の家の玄関チャイムが鳴らされました。ドアを開けると、どこぞのご婦人が立っておられます。 「何か御用ですか」 「いつもお世話になります。私は今日先生に診察して頂いた隆雄さんの奥さんの兄弟の子供の従兄弟…

隆雄爺さんが診察にやってきました。もう三十年も前に腰椎椎間板ヘルニアで手術を受けたのですが、術後の経過が思わしくなく、いまでは両方の腕で二本の杖をついて、漸くなんとか自力で歩けるといった状態の爺様です。若い頃、肺結核を患…

「病棟医長として申し上げます。本来なら当大学の外科病棟には末期癌患者さんは入院できないのです。手術を急がねばならないひとたちが沢山待機しておられるのです。関連病院にご紹介するのが常なんです。しかし、小山田さんは診察待ちの…

筍がまだ大学病院の病棟医長だった頃の話です。 或る日、ある若手医局員が浮かぬ顔をして相談にやってきました。 「筍先生、小山田さんのご親戚の方との関係がどうもうまくいかなくって。今日も午後から話が聞きたいと云われて来られる…

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