いきるものすべて 宇宙のちっぽけな粒子のひとつ   その形とて束の間の狩衣 その色とて暫しの化粧   しかし消えることはない でも生じることもない   老いを恐れることはない …

   “尊厳死”とは、患者が不治の病でしかも末期になった場合に、自分の意志で無意味な延命治療を拒否し、安らかな人間らしい死を遂げることを指します。すなわち、患者本人の意志による死に方の選択ということが出来ます。 これに対…

通夜の席は賑やかでした。皆がさんざめき笑顔さえときに見られる席に居たたまれず、筍は自室へと戻りました。部屋のドアを閉めた瞬間、涙が溢れ出しました。大声を上げて泣きました。今まで然程の痛手は無いななどと、比較的冷静に自分を…

先ず人工呼吸器の電源はそのままに、気管内挿管されたチューブの絆創膏固定を外しました。次いで暫く酸素を100%として10回程深呼吸を続けさせました。呼吸器の警報装置は予め解除しておきました。次いで気管内チューブのカフの空気…

「お父さん、こんな状態でいつまで放っとかれるの。人工呼吸なんて意味ないんじゃないの。人工呼吸をしていれば白血病が治るとでも云うの」 筍も全く同感でした。こんな形で生かされていることが父にとって何の意味があるのか。これこそ…

それから一ヶ月後、お宮参りの帰りに父を見舞いました。父のベッドに長女を寝かせ初の顔合わせです。嬉しそうでした。閑かな眼で初孫をじっと見詰めて居りました。自らの命の短さにはとっくに気付いているようでした。優しくそっと長女の…

  ですが、たった一本の電話がそんな日常を一変させたのです。大学の血液内科の医師からでした。 「一度早急にお会いしたい。お父上のことで相談したい」 翌日、大学の研究室を訪ねました。そこで告げられた病名は白血病で…

   久しぶりに煌めくような朝の光の中に出ました。最寄りの私鉄の駅に向かう住宅街の小道の両側に植えられた桜の古木が満開の時を迎えて居りました。よはすっかり春爛漫の装いでした。医師国家試験初日の朝のことです。数ヶ月間は夕刊…

   謝恩会の終了後、外科学講座に入局予定の同級生は教授に引率され、かねて憧れの“北新地”へと繰り出すことになったのです。このため父は独りで私が住むアパートへと帰ることになりました。私鉄の駅から歩いて十五分程の閑静な丘陵…

 医学部の卒業式と謝恩会には珍しく父が出席すると連絡がありました。およそ子供の就学や進路について一言も意見を言わぬ父に、いったいどのような心境の変化があったものか。当時の私はかなり訝しくも感じ、少々面倒なことになったと身…

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