「いや、大したことねえんだ。父ちゃんがそりゃえれえことだっちゅうて騒ぐもんだで。わたしゃ我慢する云うとるのに、せんせんとこ、電話するもんだで。いえね、もう三十年ほど前にいっぺんだけ気い失ったことあるんだよう…

  今は昔、みくまのの山奥に籠っていた時代のこと。   診療所も無事定刻に終わり、そろそろ夕餉の支度に取りかかろうとした午後七時過ぎのこと、電話がけたたましく響いた。 「はい、筍ですが」 「もしもし、…

  ある“みくまの”の老夫婦のこと。何ということもなくふと思い出すことがあります。いや今ではもうお二人とも居られませんが・・・。 爺さんの名前は道晴、婆さんの名前は珠恵。おふたりとも、傘寿をとうに過ぎております…

    なんだか深刻そうな顔をして診察室の椅子に腰を下ろしたお藤婆さん、曰く、 「ずっと前からせんせに、云おう、言おう、とは思うとったんだが、よう云わんかった。今日は思い切ってゆうで、怒らんといてよ。…

  待つ程もなく、写真が現像されてきました。てっつぁんを診察室に呼び込みました。 「せんせっ、バリウムちゅうもんは不味いもんやのう。もちっとましな味を付けといてくれりゃあ、いくらでも呑んだるんやけどのう。それと…

  黄砂に煙る穏やかな春の朝、再び、てっつぁんの登場です。今日は胃透視のための再診、お腹の具合がどうも芳しくないようです。正月の納豆の祟りかもしれません。 「調子はどう?起きてからなんも口にはしとらんだろうね」…

春風とともに、えろう久しぶりに、てっつぁんがやってきました。もう七十五歳にもなろうかする樵です。筍診療所の中でもとりわけ際立ったキャラの爺さんです。 「どうしたの、どっか具合いでも悪いんかい」 と筍が訊ねます。 「いやあ…

  寅次郎は今年83歳、もう長いこと高血圧で通院中。 寅さん、ある日、云いにくそうに切り出しました。 「せんせ、待合いの血圧計狂っとるんではないかのう」 「えっ、そんなことないと思うけどなあ」 「でも家で測るん…

 待つ程も無く爺さん、やってきました。弟の次郎吉爺さんが付き添いです。 「夜分済みませんねえ。腹痛はもう治ったんですが、かゆうて、痒うて、とても朝まで待っとれんもんですから」 なんともう喘いではおりません。普通の呼吸です…

 もうそろそろ寝ようかとする夜半のこと、突然、電話がけたたましく鳴り出しました。 「もしもし、筍ですが」 「せんせっ、太郎吉です。さっきから腹が痛み出して・・・、ハアッ、ハーアッ。正露丸呑んだら少し収まってきたけど・・・…

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