
今日は朝から春の雨 わがこゝろにも雨が降っております 「わが背子が 衣はる雨 ふるごとに 野辺の緑ぞ いろまさりけり」 紀貫之 春の雨の呼び名は数多い。…

待つ程も無く爺さん、やってきました。弟の次郎吉爺さんが付き添いです。 「夜分済みませんねえ。腹痛はもう治ったんですが、かゆうて、痒うて、とても朝まで待っとれんもんですから」 なんともう喘いではおりません。普通の呼吸です…

もうそろそろ寝ようかとする夜半のこと、突然、電話がけたたましく鳴り出しました。 「もしもし、筍ですが」 「せんせっ、太郎吉です。さっきから腹が痛み出して・・・、ハアッ、ハーアッ。正露丸呑んだら少し収まってきたけど・・・…

睦び月(むつびつき)の職員研修、如月二日の内覧会、そして遂には六日の開院日。それからほぼ三週間が経過した。患者は当初の予想と異なり、さほどはやって来ぬけれど、何やかやと多忙を極めた。 ひとつの事業が始まるときには当然…

いまでは遠い昔の如月の二十日余り四日、時折雪が舞い来る寒い寒い晩だったそうな。遠く近江の伊吹山を越えて吹きつのる空っ風が、板戸をぴしぴしごとごと鳴らす夜更けのこと。 夕餉の団欒も終わり、皆がそろそろ寝間の布団に潜り込…

筍診療所は今日も患者さんはまばら。ひねもす、のたり、のたりと、暇を託っております。ですが、そろそろ薄暗くなりかけた夕間暮れ、珍客、いや、賓客、それも淑女トリオがお揃いでのご来院。思わず笑みが溢れっちまう筍でした。 聞…

お房婆さんは今年八十九歳、まだまだ元気です。二、三週間毎に規則正しく外来受診されております。ある日のことです。お房さんを診察室に呼び込んだ時のことです。お房婆さんについてもう一人の婆さんまで入ってきました。 「あなた…

だいぶ明るくなってきたね。そうそう、ほら、あそこを見て。山の斜面に細い道がずっと続いているでしょ。何が通う道か、判るかい。鹿や猪がね、夜毎、川へと下る通い路なんだよ。そう獣道なんだよね。夜遅くに通りかかるとさ、出会すん…

ご一緒に朝の散歩はいかがですか。上の写真を頭に浮かべて下さい。こういったところを歩くんです。天気さえ良けりゃあね、毎日です。実にいいとこですよ。頭にイメージは浮かびましたか。そう、それでいいです。ほらっ、聞こえますか。…

かず婆さんは今年八十歳、最近いよいよ腰が曲がってきて、蝦の二つ折りのようです。先日、お風呂場で足を滑らせて尻餅をついた拍子に左手関節をしたたかに打ち付けてしまったらしい。近所のひとが診療所まで運んできました。 「だ…