豊子婆さんは80歳。毎回、診察室に入るや否や賑やかです。 「まあ、せんせ。せんせのお陰で元気にさせてもろて。いつもいつもありがとうございます。アハハ、オホホ、ヒヒヒ、フフフ」 具合はどうかと訊ねるまえからこれです。そん…
筍の大好きな現代詩人のお一人、茨木のり子さんの詩を二編、皆様にも読んでもらいたくて、無断掲載します。お許しあれ。 「自分の感受性くらい」 茨木のり子 ぱさぱさに乾いていく心を ひとのせいにはするな みずから…
『実石榴の落ちてルビーに成りきれず』 上石哲男 第三十六話に掲載した源二郎爺さまのこと覚えておいででしょうか。「何処へでも注射を」に載せた爺さまです。先日お亡くなりになりました。安らかな死に顔でした。…
「よしあしを 君し分かずは 書きたむる ことのはぐさの かいやなからむ」 新続古今和歌集(雑) こころの うちの すべてを わかってほしくて あるがままに きみに せんまんげんを ついや…
性急すぎる夢追いに疲れ果てたとて眠られぬ程の愚かしさよ。もともとに大した夢ではなきものを、散じ果てたと嘆くほど甲斐あるものと思いしか。所詮、おのれが身の程はさほどのものと思い知るべし。夜の永きの徒然に、何冊かの書棚の本…
藍子婆さんが付き添いの長女に連れられて受診しました。いつもの定期受診の日はまだ先の筈です。 「どうしたの?何処か具合でも悪いの」 玄関先で転んだらしいんです。胸が痛いと云って寝てたんで心配でと長女。「いつ…
『梅花うつぎ』 こんな判決を見ると、日本もつくづく「契約社会」になったんだと何やら溜息が出ます。下手なマニュアルをつくるからいけないんですよね。最初から、自力で出来ること…
当事者の主張としては、施設側は介護ケアサービスとして入所者のポータブルトイレの清掃を定時に行うべき義務があったのにこれを怠り、利用者自らが捨てにいくことを余儀なくされ、これによって事故が発生した。これは移動介護義務と安…
満九十五歳の女性、要介護2、主たる介護者である次女が入院することになり、介護者不在となったため老人保健施設に入所。 入所時の評価としては、総合的な援助が必要で、定期的に健康チェックを行う。転倒事故に十分注意を払い、在…
源二郎爺さんの次の往診先はさだゑ婆さんのお宅です。さだゑさんは早くに御主人を亡くされ、女手一つで旅館を経営するかたわら三人の子供を育て上げられたしっかり者です。今年九十三歳になります。九十二歳になった時、トイレに行こう…