
「いや、大したことねえんだ。父ちゃんがそりゃえれえことだっちゅうて騒ぐもんだで。わたしゃ我慢する云うとるのに、せんせんとこ、電話するもんだで。いえね、もう三十年ほど前にいっぺんだけ気い失ったことあるんだよう…

今は昔、みくまのの山奥に籠っていた時代のこと。 診療所も無事定刻に終わり、そろそろ夕餉の支度に取りかかろうとした午後七時過ぎのこと、電話がけたたましく響いた。 「はい、筍ですが」 「もしもし、…

ちちはは老いたまふ ちちはは腰曲がりたまふ 背戸の茶の木畑に 夕日翳りて ちちはは小さく見えたまふ その息子不孝者にして 肋膜なんぞわずらひ 六尺に寝そべり 指鳴らすわざ 習はむとすれど その指痩せたれば …

御高齢の方によくありますね。ちょっと頭が重いとか痛いとかで、すぐにMRを撮ってくれだの、やれCT検査だの。何ら神経学的異常が無いにも拘わらず、検査を受けないと納得しない。年齢相応の変化が認められるだけですと…

「Choosing Wisely運動」をご存知ですか?米国内科専門医認定機構財団(ABIM)によって、2011年頃から全米で始められた医療キャンペーンです。このキャンペーンは現在までに全米の71医学会が参加…

つれづれわぶるひとは、如何なる心ならん。まぎるるかたなく、ただひとりあるのみこそよけれ。世にしたがへば、心、外の塵に奪われて惑干やすく、ひとに交われば、言葉よその聞に随ひて、さながら心にあらず。ひとに戯れ、…

今日はその事をなさんと思へど、あらぬ急ぎ先出来てまぎれ暮らし、待つ人はさはりありて、頼めぬ人は来り、頼みたる方の事は違ひて、思ひよらぬ道ばかりはかなひぬ。わづらはしかりつる事はことなくて、やすかるべき事はい…

(前段略ス)身をも人をも頼まざれば、是なるときは喜び、非なるときは恨みず。左右広ければさはらず。前後遠ければ塞がらず。せばきときはひしげくだく。心を用いること少しきにしてきびしきときは、物に逆らひ、あらそい…

その昔、大阪の池田で家を借りることになった。二階建ての一軒家、玄関脇には別棟もあった。母屋と別棟に囲まれた庭には、柿、八朔、甘夏、茱萸など、いろいろな果樹が沢山植えられていた。そこそこの広さのいい庭だった。…

微かな記憶がある いまはもう遠い昔のこと なんの衒いも邪心もなく 眠りに落ちたある一瞬に浮かぶ あの奇跡のごとき振る舞い 微かな記憶がある いまはもう遠い昔のこと 誰に向けての笑みでもなく ただただ純真無垢…